アゲハ蝶
ひらりひらりと舞い遊ぶ様に姿見せたアゲハ蝶
夏の夜の真ん丸月の下
喜びとしてのイエロー
憂いを帯びたブルーに
世の果てに似ている漆黒の羽
「何を聞いてるんですか?アスラン」
「……ニコルか」
一面がガラスになっており外の景色が見渡せるホールの様な所でアスランは手元のテープから流れる音楽に耳を傾けていた。
「お前が聞いてみろとくれた奴だ」
「あぁ、良い曲でしょう?」
同じようにそれに耳を近づけて、二コルはくすりと笑った。
「……お前がクラシック以外を勧めてくるなんて珍しかったからな」
ふいと照れた様に視線を反らすと、外の景色が目に入る。
ひっそりとした宇宙、しかしいつまた戦いが始まるか分からない。
「この曲、サビが良いんですよ。ほら」
あなたに逢えたそれだけでよかった 世界に光が満ちた
夢で逢えるだけで良かったのに
愛されたいと願ってしまった 世界が表情を変えた
世の果てには空と海が混じる
シンガーの声に添うように、まだ声変わり前なのか少し高いニコルの声が歌う。
確かに良い曲だ、とアスランは思ったが彼の心はその歌にニコルの想いまでは感じ取れなかった。
むしろ、敵軍のキラの事の方が頭に浮かんでいた。
その、心ここにあらずといった様子にニコルが見えないように苦笑する。
結局、自分は想うだけ。彼の心は違う所にある。
この歌が、まさに自分を代弁しているものだと思い、それとなく彼に聞かせたが、どうやらそれも逆効果だったらしい。
しかし……
「あなたが望むなら……僕は火の粉の盾にもなりますよ、アスラン」
呟いた言葉は、彼の耳には届かなかった。
――その数時間後
突然の地球軍進軍の動きに、ザフト側の動きも慌ただしくなる。
アスランとニコルもガンダムに乗り込み、動き出す。
と、やはり運命といった所か、キラとアスランが対峙する。
その様子にただならぬものを感じたのか、二コルがそれを見守る。
彼の頭には先ほどの曲がぐるぐると巡っていた。
それはアスランのテープには入れなかった2番の歌詞。
あなたが望むのならこの身などいつでも差し出していい
降り注ぐ火の粉の盾になろう
ただそこに一人きり残った僕の思いを
掬い上げて心の隅において――
キラの攻撃に、思わずアスランの機体がたたらを踏む。
その瞬間をキラが見逃す訳が無かった。
しかし、それに待ったをかけるようにニコルは動き出していた。
叫びをあげながら、キラに突進をかける。
……それでアスランが守れると言わんばかりに。
だがキラはそれを許さなかった。
刹那、無常にも彼のソードはニコルのコックピットを貫いていた。
血は、彼のスーツの中に及ぶ。しかし、彼は死の恐怖に直面しながら想いは彼に向いていた。
――アスラン、これで、貴方の記憶に、僕は永遠に残れますね……
一度目の爆発が起こった。
「母さん……僕のピアノ……」
そして、彼の決定的な……絶望的な死を現す2回目の爆発――
ニコルは……死んだ。
『ねぇアスラン?』
『何だ?』
『もし僕が死んだら……ううん、死んでも、僕が貴方を慕っていた事実を、僕が貴方の側にいたこと忘れないでいて下さいね……』
『どうした?縁起でもない事言うなよ』
『でも……忘れないで下さい――約束ですよ』
――約束、ですよ
「ニコル――――!!!!!!」
荒野に咲いたアゲハ蝶 揺らぐその景色の向こう
近づくことが出来ないオアシス
冷たい水を下さい 出来たら愛してください
僕の肩で羽を休めておくれ
END
作者後書
ここまで読んで頂きありがとうございます(一礼)。
山川滝子のリクエストにより、ニコアスで悲恋でした。
お分かりでしょうか?BGMはまんまですが、ポルノの『アゲハ蝶』です。
ちょっぴりニコルを黒くしてみましたが……どうなんでしょう??
ぜひ感想をBBSにカキコして頂けると、小躍りしてお迎えいたしますです。(笑)
では、海菜でした☆)